「やさしさの精神病理」
大平 健 (岩波新書)


「あなたは本当のやさしさを勘違いしている・・・
数年前にある女性から言われた言葉です。
「本当のやさしさって、もっと強くて厳しいものなのよ」
彼女の言葉は続きました。

「あの人はやさしい・・・」なんて、普段あまり意識しないで私たちはやさしいという言葉を使っていますが、ようく考えてみるととても曖昧な言葉。この本ではちまたに氾濫している「やさしさ」に焦点をあわせて、精神科医という職業のもと、著者が出会ったさまざまなやさしさとその問題点が描かれています。
私がいちばん興味深かったのが、人をホットウォームクールと三つに分けていること。ホットとクールはなんとなくニュアンスが伝わってきますが、この「ウォーム」の存在を知ることが、現代の人たちが目指し、行うとしているやさしさを説く鍵になっているようです。
相手の心に立ち入らず、葛藤をできるだけ避けて関係を保とうとすること、それがウォームとよばれているやさしさの正体のようです。傷つくことを極度に恐れるどうしの関係から生まれといっても過言ではない、そんな「やさしさ」について、著者はいくつかの例をあげて問題点を投げかけています。

最初にもどりますが、真のやさしさを私に説いたその女性の言葉に、聞かされた当初はショックを受けた私ですが、他人の痛みを自分のことのように感じ、そこから逃げない強さを持った、そんな本当の意味でのやさしい人になりたい・・・ そう思い始めるきっかけになったのも確か。彼女の言葉とその後に出会ったこの本に、今はとても感謝しています。
それがたとえ曖昧で不確かなやさしさ「ウォーム」だとしても、冷たい人間よりははるかにいい、そんなことも思いました。