山本文緒



眠れるラプンツェル(幻冬舎文庫)

この主人公、私とよく似ている・・・そう思いながら読み進んでいくうちに、私の心がザワザワと揺らぎ、「ほんとにこのままでいいの。」「それで幸せなの。」と、本の内容が私の心に問いかけてくるようでした。温室のようなぬくぬくした部屋で波風をたてないように静かに暮らす専業主婦汐美ですが、彼女の恋がきっかけになって暮らしが少しずつ壊れていきます。本当の意味で自立をしようとすると、今までの平穏な生活をいっぺん壊さないといけないのかな、なんてそんなことを考えてしまいました。わりと身近な題材をあつかっているだけに、違った意味で私にはとても怖いお話だったのです。
この小説を読んで、主人公の汐美と自分と重ね合わせてしまった方は多いかも・・・


あなたには帰る家がある(集英社文庫)

2冊目の山本文緒さんの小説です。先月読んだ「眠れるラプンツェル」の時にも感じてしまった、著者の、とくに女性に対する厳しいまでのとがった描き方に、読んでいる途中でたまらなくなり、思わずため息まじりで読んでいた私なのです。
でも、面白いストーリー展開と、「このままでいいの・・・」こちらにつきつけるような文章の流れに、気がつくとミステリーを読んでいる時のようにお話にどっぷりつかっている自分がいたのです。他人事ではなくいつ自分に降りかかってくるか分からない、そういう日常の生活に潜む怖さのようなものが、じわりじわりと心に忍び寄ってくるお話です。あと、どうしても他人の芝生は青く見えちゃうものなのかな。そんなことも思ってしまった私でした。


絶対泣かない(角川文庫)

読書の魅力のひとつに、いろんな生き方や考え方に出会えるというのがあります。この本の中にもフラワーデザイナー、漫画家、派遣社員、専業主婦など、さまざまな職業や生き方をしている女性たちが登場しています。そしてそれぞれみんな頑張っているので、読み進んでいくうちに元気が出てくるのです。

彼女が書かれた本は何冊か読んだことがありますが、どちらかといえば女性に対して鋭い視点で描かれていて、「ほんとにそのままでいいの?」と、なにかをこちらに突きつけるような厳しいものも感じていました。でもこの短編集では職業こそ違うものの、それぞれ一生懸命に生きている女性たちをあたたかく見守っている著者の視線が感じられました。

意地悪だったはずの女性がある時にはホロッと弱みを見せてみたり、ただ良い人、悪い人という分け方では分類できない女性たち・・・
時には格好悪くさえ見えてしまう、彼女たちの一生懸命さにエールをおくっているようにも感じられたのです。

私は辛いことや悲しいことがあると思いきり泣く派・・・ 泣いて、泣いて、泣きまくると心がスッと軽くなるんだけどな。


群青の夜の羽毛布(幻冬舎文庫)

ちょっとヘビーな恋愛小説、そんな感じで読みすすんでいた私ですが、ホラー小説なみのその怖さに、気がつけば一気に読んでしまっていました。どうしてこの作者は、人、とくに女性の深部にある暗い部分を表に浮かびあがらして描き出すのだろうか、なんて、ため息がでるほどの重い読後感が今もなお続いています。
家族たちがもたらす凄まじいほどの愛情の裏の憎悪たち・・・ なぜか男名の主人公の女性、さとるの中に自分自身を見てしまった時の心地悪さといったら。

どちらかといえば暗いテーマを描いているはずの吉本ばななさんの本の読後感が、心がやんわりと満たさせるのとは対照的に、彼女の書くお話は、キリキリしたものを突きつけられたような、そんな後味の悪さを感じるのはなぜなのでしょうか。
そんな中、さとるを愛するひとりの男性鉄男の存在がとても救われるのです。さとるのどうしようもない弱い部分、かかえているものすべてを受け入れて、それでも彼女を愛する真っ直ぐな鉄男・・・ やはり愛っていいですよね〜。

感想にはけっこう辛辣なことを書いているくせに、山本文緒さんの本は去年から何冊も読んでいる私です。ひとたび彼女の本を読み始めると、その作品世界から抜け出せなくなってしまうのだから、やはりすごい書き手ですよね。


恋愛中毒(角川書店)

「あれ・・・?」読み始めたころは、今までの山本文緒さんの書かれたお話と違っているので、ちょっと戸惑ってしまった私です。なんだか林真理子さんの本を読んでいるみたいだったのです。主人公の女性の生き方やその言動がとても哀しく、なんだかやりきれなくて、いやな言葉だけど「愛に飢えている」そんな感じが伝わってきました。山本文緒さんのお話にでてくる女性たちは家庭的に問題がある方が多いのだけど、このお話でもそう。愛を求める相手が違っているだけで、やるせないほどの悲しい過去や事情が主人公の持つ心の寂しさに相乗して、読んでいると切なくなってしまいます。

途中からこのお話に、ある怖さが増してきて、山本文緒さんらしいミステリー仕立ての展開に、一気にそのストーリーに引き込まれていきます。激しい恋愛感情とストーカーとよばれている行為の差の曖昧さにちょっと身震いがするような、そんな心地悪さは感じたものの、えぐるような鋭い心理描写は、まさに山本文緒さんらしい作品だと思いました。


みんないってしまう(角川文庫)

なんだか寂しい題名のこの本は、12のお話が収められている短編集です。どのお話もとても面白くて、著者が主人公たちをどちらかといえば温かい視点で描いていることもあって、今までの山本文緒さんの書かれたものによく登場する、ちょっと毒気のある、そんなお話とはまた違っていたのです。作品によっては読み終えたあとで心に温かいものが残る・・そんなお話たちが印象に残っています。

>私とハハなら、四十五点の人生でよかったと笑ってあげられる。
>人様に誉められなければ充実しないような、そんな人生を否定してあげられる。
という一文が私の好きなお話『ハムスター』の中にあります。これを読んだ時、私は思わずドキッとしてしまいました。自分にも他人にもつい完璧を求めてしまう、そんな私たちへの警鐘にも聞こえる言葉・ ・ ・ そしてそれは山本文緒さんの、人を、その人の生き方を見る時の愛情の伴った鋭い視点が感じられ、その深い洞察力に思わずうなってしまった私です。


きっと君は泣く(角川文庫)

主人公の女性、椿は、今まで山本文緒さんの小説には出てこなかったタイプの女性。美人であることを鼻にかけた、とても傲慢でワガママな性格です。椿はもちろん、謎めいた魅力のある祖母、太って身なりにかまわない看護婦の魚住、すべてにだらしなくどうしようもない男性の群贅・・・ どちらかといえば個性的すぎるほど個性的でアクが強い人たちが織りなす物語が面白くないわけがなく、読み始めると一気に読んでしまった私です。表面は笑顔、でも陰ではお互いにさぐりをいれあっている的な、山本作品によく登場する女性同士の暗いかけひきも、このお話にはたくさん盛り込まれていて、「彼女の作品はこうでなくちゃ・・」そんな感じでぐいぐい引き込まれる、そんな小説・・・。

物語の最後のほうでは、美人だけど傲慢な椿と、容姿も口もよくないけど根がやさしい魚住、この二人に友情のようなものが生まれてくることが面白いと思いました。
文庫の裏表紙に書かれた文に、「清々しく心洗われる、あなたの魂の物語」なんて書かれてありましたが、これはまったく違っています。そんなきれいな物語ではなくて、ヒステリックなほどの愛憎劇にため息が出てしまう、そんな「毒」のあるお話なのです。でも、面白いので許せちゃう。


●プラナリア(文藝春秋)

著者の本を読むといつも感じる、ちくんと残る心の痛み。思いがけない人のやさしさに触れたような温もり・・その両方が感じられる本。
江國香織の本からピュアな透明感を感じるのなら、山本文緒さんの描くお話から伝わってくるのは間接的に照らす、白熱灯のような温かさ。文中から人のもつイヤなぶぶんとよいぶぶん、その両方が伝わってくるのは著者がバランスのいい書き手だからなのでしょうか?かたよらないで公平に物語の中から浮かび上がってくる登場人物たち・・
人物ひとりひとりに自分を投影させた時のやるせなさ。けれど、読み終わったあとに感じる不思議な安堵感はなぜなのでしょう。

表題にもなっている「プラナリア」ですが、乳癌を患ってしまった主人公の女性や、やっかいな行動をして彼女を困らせる老人…どちらかといえばいたわるべき存在として描かれることが多い彼等の存在が、この本ではちがっています。
「現実はきっとこんな感じなのかも」
そんなふうに思わせるほどの説得力に、ぐいぐいと引き込まれていきます。

五つのお話で構成されている本ですが、「どこかではないここ」がいちばん心に残っているのは、主人公と同じ、私が主婦だから?
「こんな生き方だけは絶対にしたくない」
結婚する前に私が強く思っていた悪い例にぴったりだった、主人公のおくる毎日ですが、実際に自分が主婦になってみれば、現実にきちんと向き合ってしっかり地に足をつけて日々をおくっている彼女たちのたくましさを、どこか羨ましく思っている自分がいます。

ちっともかっこよくなんか生きてはいけないし、頑張ってもうかばれなかったり、自分の思いとは裏腹な出来事たち…やさしい人と意地悪な人が交互に現れるようなでこぼこした日常。それは平穏でありたいと強く願いながらもそうはさせてくれない日々の出来事・・ きっとみんなもいっしょなんだね、そう思わせる本です。