立原正秋


●花のいのち(新潮文庫)

立原さんの作品に『残りの雪』という名作がありますが、このお話はその『残りの雪』をもっと軽くしたような作品で、正直言ってちょっと物足りなさを感じてしまいました。
彼の作品には植物、とくに花の描写が多く登場し、それが男女の恋愛を美しく彩っているのですが、この小説も題名からして期待して読んだものの、私にはちょっと期待はずれだったのです。

立原作品に出てくる女性たちは上品で、とても女らしくていつも私の憧れ。
心がカサカサに渇いて潤いがなくなったと感じた時、そういった時に彼の書かれたものを読み返すと、私の心の「」の部分が少しだけ目覚めてくれるようです。


●あだし野(新潮文庫)

立原正秋さんの本は何冊か読みましたが、このお話がいちばん好き。今回で読むのは3度目なのですが、最初に読んだ時にはその内容よりも、主人公の男性壬生のとんでもない行動ばかりが目についてしまい、読みながらとても動揺している自分がいました。
道徳的に見ると壬生はどうしようもない男。だけどその男を愛する女性がいて、彼を愛するがために身体や精神を病んでしまいます。人の持つ強さと弱さ、愛情と憎しみ…相反するものたちが絡みあい、季節の移ろいとともに時を流れていくさまは、時とともに変化する美しい自然の描写といっしょになって、読み手の私の心の中にもじんわりと流れていくようでした。

艶やかに咲いた花たちもいつか散っていく…そのありさまは、すべてのことにいつしか終わりが来ることへの哀しみ、そして喜びを私は文中から感じました。
主人公の男性は倫理的にはけっしていい人だとは言えませんが、彼の持つ大きな力、精神の強さのようなものが伝わってきて、3度目に読んだ時などは壬生に惹かれはじめているのだから、そんな自分にちょっとドキッとしてしまったのです。

男と女の愛する様やその営みを自然の一部と考えた時、艶めかしさがよけいに強く伝わってきたのはなぜなのでしょうか。
この小説を読みかえすそのたびに、大人の恋愛がけっしてきれいなものだけでは成り立ってはいかないことに、いつもちょっとだけ、ため息がでそうになってしまうのです。