谷村志穂


●僕らの広大なさびしさ(幻冬舎文庫)

谷村志穂さんの書かれたものを読むそのたびに、彼女の持つ感覚が私ととてもよく似ているのでちょっとドキッとさせれるのですが、このお話もやはりそう。
男性と女性が強く惹かれ合う時、お互いの持つ陽の部分やパワーを放っている部分に共鳴し合う…そういう惹かれ合い方がある一方で、お互いの心の奥に隠し持っているどうしようもない孤独感とか挫折感・・どちらかといえば負の要素がお互いの心を強く結びつけてしまう、そういうことも多いような気がしています。
この小説に出てくる二人もまさにそう。大きなさびしさが二人の距離を縮め、そして同じ時間を過ごしているうちに、その抱えているものがいつの間にか二人に大きくのしかかってくる、という哀しい現実。

読み終えた後で、なんだかとても寂しくなってしまいました。
でもある現実から逃げ出したくなっている時にこのストーリーを読むと、ジワーっと心に沁みいるものがあります。


ナチュラル(幻冬舎文庫)

妻子がいるチャオとその友人リキ。ふたりの男性のあいだで揺れ動くナオ。そんな三人の関係が日常的に進んでいきます。力まないで肩の力を抜いて読めるこの本が好き。読んでいるうちに自分の中にあるクネクネしたやわらかい、そしてどうしようもない女の部分が目覚めてきそう。
いつのまにかチャオにとってよく躾された犬になってしまったナオ。頭では嫌っていながら、身体ではリキを求めてしまうナオ。彼女のことを愚かな女、の一言で片づけてしまうことは簡単なのでしょうが、この本を読んだほとんどの女性がナオの気持ちがよく分かるはず。分かるからこそ切なくて、彼女の性が哀しい。
これひとすじ・・そう言い切れる人はきっと幸せな人。たくさん迷って、漂って、苦しいことが分かっていても求めてしまう…そんな弱い部分を私もたくさん持っているから、ナオの気持ち、この小説の内容が心にスーッとはいっていくのだと思います。
この本を男性が読むと、きっと全く違った感想を持つのでしょうね。読み終えた後で思いました。

1DKクッキン(集英社文庫)

おいしいって安心なのだ。
谷村さんの言葉です。おいしいって楽しい、おいしいって幸せ・・この本を読んでいるとしみじみと思います。
料理のレシピがかわいいイラストつきで分かりやすく紹介されているこの本、お役立ちの料理本として読むこともできますが、友人どうしで仲良し、という共著のお二人の会話、そのやりとりが楽しくて、ニコニコしながら読み進んだのです。
市販の調味料を上手に活用することで手間のかかる手順は省き、なによりも美味しく食べる幸せを大切にした、そんな料理たちがいい。
卵焼き作りは宇宙のファンタジー、世界一簡単な五目ずし、ぴかぴか光る白飯…本の中に出てくる言葉たちが、私の中の「料理したい」気分を高めてくれそう。

自宅にぬかみそまで備え付けてある女には…
という文章には思わず苦笑い。だって私のキッチンにはぬかみそが常備してあるのです。ふふ。
マリネにすし酢を使うアイデアはいただき、です。


お買い物日記 PART-U(主婦の友社)

DURALEXのグラス、ピンクペッパー、カトキチの冷凍うどん、オニザキの白ゴマ、陶和の市松模様の砂糖…三年前にこの本を読んでから私が買ったものです。みんなとてもよくて、今でもお気に入りのものたち。
お買い物日記、という名前のとおり、谷村さんと飛田さん、仲良しのお二人が選んだおすすめのモノたちが、自分たちで撮られたという写真つきで楽しく紹介されています。遊び心のたっぷりある二人だから、文章も載せられている写真も素敵なのだけど、どこかあぶなっかしくて、時々いけなかったりもするのです。
谷村志穂から先生とよばれている飛田和緒の、型にはまらない柔軟な物の使いこなしが好き。サテンのパジャマにきちんとアイロンをかけてから眠る、そんな彼女流のこだわりだとか、ていねいな暮らしぶりがよかったのです。

A.P.C.の黒のタートルセーターを、オードリー・ヘップバーンみたいに着てみる。猫のジュリに究極の猫じゃらし、パーフェクト・フェザー・キャットで遊んであげる。髪をのばして、クリップ・クリップという名前の髪止めでシャキッとまとめ髪をつくってみる。アニエスb.のキャミソールを服の胸元から少しだけのぞかせてみる…まだ実現していない、これから私がやってみたいこと。


●ハウス(集英社文庫)

井上陽水やミッシェル・ポロナレフ…どんなに明るい歌を歌っても、どこか哀しいトーンがぬぐえない歌い手。谷村志穂さんの本を読んでいると、明るいお話であっても、どこか漂う哀しみに心が揺らぎ、登場人物たちのもつ温かさといっしょになって、読んでいるといつも心がホロッとしてしまうのです。
この本には自分の居場所を探し続ける主人公たちの物語が12篇収められています。その場所は人から見るとたいしたことがなくても、自分にとっては居心地がよくて、自分が自分らしく居られる大切な場所・・・
サラッと洒落たタッチの文体なのにツンツンと取り澄ました冷たい印象を与えないのは、どのお話にも人のやさしさや温かみが感じられるからなのでしょうね。

たとえすんなりと生きていけなくても、器用に立ち回ることができなくても、いつでも一生懸命な主人公たちが愛おしく思えてくる、そんな谷村さんの小説が好き。

*谷村志穂さんご本人が運営されているサイト・HOUSEに行くと、温かくてアクティブな谷村さんに出会えます。掲示板もあります♪