曽野綾子


●天上の青(新潮文庫)

宇野富士男と雪子…このお話の中には全く対照的な二人が登場します。他の作品の多くは、どんな悪い人にも良さのようなものも描かれていて、それがある種の救いのようなものとなっているのですが、この宇野に関してはその悪事にはただ悪があるのみ、という感じなのです。心がすさみ疲れきった宇野が時々雪子の家を訪れるのですが、彼女はどんな時でも彼を拒まず、いつも純粋な心で静かに宇野を迎え入れます。宇野が激しい流れに翻弄されている船だとしたら、雪子はいつも動かず、静かにそこにたたずんでいる小さな島…。宇野はその静かな島が唯一の安息の場所だったのかもしれません。

曽野綾子さんの書く小説は何冊か読んだことがありますが、その中には雪子のような登場人物がよく登場します。私が彼女が書くお話が好きなのは、その登場人物たちにとても魅力を感じるから。
私が苦手な人、私が今まで悩まされてきた人にはある共通点があります。
「私は正しい」「あなたは間違っている」…いつもガチガチの正義感で武装して攻めてくる人たち。曽野綾子さんはそういう人に対してとても厳しい視点をもっています。ほとんどの人が持つ悪い部分、しょうがない部分も時には受け入れることの大切さ・・・それらが小説の中に息づいているような気がしています。

真面目・・と言われている人たちの中には、雪子のように相手を優しく包み込むような真面目さがある一方で、相手をどんどんと追いつめていくような真面目さも存在していて、そういう真面目さに出会うといつも逃げ腰になってしまう私です。