篠田節子


聖域(講談社文庫)

篠田節子さんが書かれた本を読むのがこの本がはじめて。
とにかく、「すごい!」この一言につきます。ダイナミックな筆力とワクワクするようなストーリー展開に、気がつくと一気に読み終えていました。
この世とあの世、生と死・・・それらの対する世界をこちらに突きつけるように描いてみせ、それに日本に古くから伝えられてきた慣習が絡まって、怖いけど、おぞましいけれど、とても魅力のある世界を覗かせてくれているのです。
一見宗教をあつかった作品のようにもとれますが、いわゆる癒やし系の作品とは全然違っているので、心が疲れている、そんな時には読まないほうがいいかもしれません。


ハルモニア(マガジンハウス)

2冊目の篠田さんの作品です。精神世界の本を一時期何冊か読んだことがある私ですが、彼女の小説からはある精神世界に通じるものを感じます。篠田節子さんが彼女の生活や思考から気づいたある真実のようなもの・・・それが色濃く流れているお話だけに、人の心に普段は潜んでいるある部分を揺るがし、ざわつかせ、それは怖さとともに哀しさという感情をも私たちにもたらすようです。でもまた何度でも手にとって読みたくなる、そういう本だと思いました。
東野が由希の音楽の並ならぬ才能、それをとても愛していたことはこちらにも強く伝わったのですが、彼が由希をひとりの人間、ひとりの女性として丸ごとずうっと愛していた・・・そう思いたい私です。でないと哀しすぎる。
由希の不完全さがとても透明感をもって伝わってくるのはなぜなんでしょう。それがそのままいとおしさに通じるものがあって、私は作者の視点にとても男性的なものを感じたのです。


神鳥イビス(集英社文庫)

ほんとうに面白かった!読み始めたのがお昼前だったのですが、お話に引き込まれるように読み進んで、気がつくと食事するのも忘れていたほど。篠田さんの作品を読んでいると、自然が持つ、美しさと同時に怖さが実に巧く表現されていて、それはすべてのことに明の部分があるとかならず暗がある、そんなことをあらためて感じさせられるのです。
ホラー小説はどちらかといえば苦手な分野だったのですが、篠田さんの本を読み始めてから気持ちが変わりました。ただ怖いだけではなく、きっととても美しい世界を描いているからなのでしょうね。
大きな自然の持つ、神性といってもいいほどの美しさ、そして怖さの前で繰り広げられる人々の愛憎・・・
この面白さを文章で表すのはとても難しくて、とにかくこの本を読んでもらいたい、そんな思いでいっぱいの私です。


●愛逢い月(集英社文庫)

めであいづき…きれいな響き。
そのきれいな言葉とは違い、愛とその終わりを描いた6編の短編はどれも怖い。はっきり言って読後感はあまりよくありません。 自然になじみ深い著者だけに、自然と人間をふくめた生き物たちの描写は巧みで、その上手さゆえにより怖さが迫ってきます。 人を深く愛し、その愛が消えていく時の心の葛藤、憔悴感が文面に詰まっていて、読んでいると息が詰まりそう。
私は『秋草』のお話がいちばん気に入りました。秋草の描かれた金箔のはがれ落ちた襖絵に強く心惹かれる悦子。逢うと情事は重ねるものの、男の心がとっくに自分から離れている、その寂しさを目の前の襖絵に見出してしまいます。燃え尽きるはずだった男との関係が儀式のようになってしまったこと、このことに思い悩む悦子のとった行動は…。
かつての激しい恋の思い出と代わり、まるで狂ったかのような悦子の行動は哀しく胸に迫ります。
耽美・・嫌いではありませんが、物語からもっとエロティシズムが感じられてもよかったかな。