島村洋子


●壊れゆくひと(角川文庫)

面白かったのでスラスラと読んでしまいましたが、ラストのどんでん返しといい、読後感といい、なんだかとても不思議なお話。
人に潜む狂気を描いたサイコ・ホラーということなのですが、正直言って私はこのお話を怖いとは思わなかったのです。でも二年ほど前に読んだ、当時とても話題になった本、「平気でうそをつく人たち」のことを思い出していました。自分を守り、自分をいい人だと思わせたいがために巧妙な嘘をつく人たちのことを描いた本です。一見普通の、むしろいい人たちに潜む邪悪性について長々と説明たっぷりに書かれてあって、その内容を読み進んでいくうちに、まるで胸に小骨がささったような息苦しい気持ちになったことを思い出します。
この「壊れゆくひと」のすごいところは、短く簡潔な言葉でそれらを言い表しているところ。
難しいことを難しく述べることよりも、難しいことをいかにわかりやすく言い表すことができるか・・・ そのほうがよほど大変なことだと私は思うのです。そういった意味でも、この小説が奥に深いもの(大きなテーマ)を抱えながらも、最後まで読み手を飽きさせないで、人の心の深層まで描いてこちらに見せてくれています。

この小説にたびたび登場する言葉に秘密の花園がありますが、
「私にとっての秘密の花園って何かしら?」
そんなことを思ってしまったのです。人を傷つけてまでも守ろうとする秘密の花園は、本当に誰の心にもあるものなのでしょうか…。