群 ようこ


贅沢貧乏のマリア(角川書店)

2年前にはじめてこの本を読んだ時と今とでは、自分の中での受けとめ方が随分変わっていることにビックリしてしまった私です。森鴎外の娘、森茉莉のことが描かれている読み物なのですが、以前読んだ時には森茉莉の周りの目を気にしない、天真爛漫にも見える彼女の生き方に憧れた私です。でもなぜか今読み返してみれば、「なんて、ワガママな女性なんでしょう…。」いつも自分が一番愛されていたい、と言う風な、うるさいほどの彼女の自我ばかりが感じられてちょっと辛かった。ただ、どんなに苦しい状況に追いやられようと、どんな環境においても自分の美意識やカラーを持ち続け、それが前に向かせるエネルギーに結びついていることは見習わなくては、なんて思ってしまった私です。
群ようこの書かれたものはエッセイを中心にして、好きで何冊か読んだことがありますが、その中には彼女の家族のことが書かれてあるものも多いのです。この「贅沢貧乏のマリア」の中で描かれている彼女の家族、とくに群さんとその母親との関係は、今まで読んだどの読み物よりも一番正直に、真実に近い形で描かれているように感じられました。


かつら・スカーフ・半ズボン(ちくま文庫)

大好きな群ようこさんのエッセイは、肩の力をぬいてとにかく楽しめるから好き。
涙が出るほど大笑いしながらも、「うんうん。その気持ち、すごくよく分かる。」なんて、本を読みながら何度もうなずいている自分がいたのです。
笑いながらも納得させられるという、群ようこさんの楽しいマジックにまたひっかかってしまったようです。彼女特有の照れなのかしら、自分のことを面白おかしく書かれていますが、群ようこさんのファッションに対してのこだわりがとても感じられて、じつは彼女がとてもオシャレな女性であることを、この本を読んだたくさんの人が感じたはず。
でも、母親のカツラをかぶって登校した小学生の群ようこさんはすごすぎる・・・
一度その姿を見てみたかった私でした。


またたび回覧板(新潮文庫)

群 ようこのエッセイはむかしからとても好きでよく読んでいたのですが、ある時から前ほど面白くなくなってしまっているのを感じていました。彼女の十八番の動物もののエッセイも前ほど笑えなくなっていたのです。
でもこのエッセイはほんと面白くて、きっと素の彼女がそのまま文章に表れていたのかしら、自然な感じでとてもよかったのです。あとがきを読んで知ったのですが、この本は一年間お休みした後の最初の本ということなので、彼女の心が豊かにいっぱいになった、その余裕のようなものがいい文章につながったのかな。
日常のほんのちょっとした出来事をこちらに楽しく伝えてくれる、そんな彼女の楽しい文章はあいかわらずなのだけど、編み物やポプリ、着物や美容法など、彼女の女性らしい細やかさもたくさん出ていて、読んでいるうちにフンワリとやさしい気持ちになってきました。
解説を書かれた方が群 ようこさんの文章を毒舌というふうに表現されていましたが、私は全然思わなかったのですよ。たしかにストレートで、どちらかといえば大胆な物言いですが、文章から彼女の優しさが伝わってきました。
これからもお休みしながらゆっくりと自分のペースでお話を書いて欲しい、そう願う私です。


●飢え(角川文庫)

『放浪記』を書いた作家林芙美子の人物エッセイです。
群 ようこの人物エッセイといえば森茉莉のことを描いた『贅沢貧乏のマリア』が大好きな私。だからこの本も期待して読んだのですが、森茉莉の憎めない自由奔放さや、風変わりなところまでなんだかかわいく思えてきたのに、林芙美子はどうしても好きになれない・・
面倒なことが大嫌いでトラブルから逃げてばかりいる、そんな性格だと自分を分析する群さん。そんな著者が自分とはまったく違うタイプ、たくましい働き者でうんざりするほど上昇志向を持つ女性のことを描いているのですが、「自分とは合わない」で終わらせないで、ちょっとした行動や小さな言葉をひろい集めては林芙美子を理解しようとする、その姿勢に感心しました。
文中に林芙美子の文章がたくさん登場しますが、言葉の用い方が巧みで、はっと意表をつくような表現にはうなってしまいます。その中でもとくに私が好きな一文があり、それは「きどりはおあずけ・・」ではじまる文章。ついきれいな言葉でごまかそうとする物書きとしての自分を、厳しく、だけどどこかのんびりといましめている姿が印象的。
第一線にいる人、才能がある人…集団にとけ込めないぶん、いつも孤独感を抱えながらも本当は不器用な自分をしっかり支えて生きていくしかなかった、そんな著者のエールを感じました。