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森 まゆみ




●寺暮らし(みすず書房)

東京の地域雑誌「谷中・根津・千駄木」という東京の地域雑誌の編集者で、町づくりや建造物保存にかかわってきた森 まゆみのエッセイ。「みすず」誌に連載されたものを中心に、2年にわたる彼女の文章をまとめたものです。

流行のインテリアに囲まれたお洒落な暮らし…時が経つと色あせていくそんな暮らしにどこか薄っぺらいものを感じていたちょうどそのころ、この本と出会いました。
著者が住むお寺の境内に建てられた集合住宅。けっしてお洒落ではないしモダンからはほど遠いはずなのに、住む部屋、そこでの暮らしぶりがなによりも彼女にあっていて、そんな生活がどんなに毎日の暮らしに張りと心地よさをあたえてくれるのか・・住む家、そのまわりの環境の重要さをあらためて思いました。
著者のすごいところは自分の家だけにとどまらす、自分が住む地域はもちろん、社会全体の環境についても考えているところ。環境問題と聞くとどこか構えてしまう私ですが、「○○せねばならない」という堅苦しさより、「このほうが気持ちよくて好きだからやっているだけ」 という、著者のおうようさが感じられてよかったのです。

情報化の波に翻弄される人々、たくさんの情報にひそむ落とし穴…文明批判も、生活人としての基本がしっかりできている彼女が述べると真実味をもって伝わってきます。
ひとりの時間と静かな暮らし、そして自然を愛する著者ですが、女手一つで子供を養わないといけないという生活面での厳しさもかかえていて、そのへんのバランスのとりかたが大変そうに見える反面、すくっと自分の足で立っている彼女が羨ましかった。

日本のマスメディアが発信し続ける「下町情緒」のイメージの押し売りにはうんざりしていると言う森さん。だけどその下町情緒にずっと憧れ続けている私は、読みながら思わす苦笑してしまいました。あたたかさと厳しさ、その両方が伝わってくるエッセイを読み終わったあと、自分が好きで目指しているこざっぱりした簡素な暮らしぶりに、いつしか思いを馳せていたのです。


●その日暮らし(みすず書房)

その日暮らしとは、未来のために現在を犠牲にしない生活。簡潔に暮らしたい…あとがきで著者は述べます。だけど実際の彼女の暮らしぶりは簡潔とはほど遠い。
夜中になってようやく、生活という魔物がしずまった。
文中の彼女の言葉がしんと胸にひびきます。

離婚して三人の子供を かかえての生活。仕事と毎日の雑事に追われ、その忙しさの合間に海外旅行を楽しむ… そこに見えるのはアクティブだけど雑多な暮らしぶり。
ゴミ問題、リサイクル、老人問題、バリアフリー・・今の日本、社会がか かえている問題も、生活者としてしっかり生きている彼女だからこその説得力。
大人数でワーッと楽しく過ごすことが好きな人と、どちらかといえばひとりの時間を大切にしたい人がいます。森さんは後者の人。そんな彼女がけっして広くない家の中、大きく成長した三人の子供たちと助け合い、ある時はしめぎあいながら暮らしていく、その様子がほほえましかったのです。

旅が大好きな著者は訪れた国のいくつかを紹介しているのですが、普通の観光レポートとはちがう、美しいものときたないものすべてをひっくるめた、そんな丸ごとの旅のレポートが印象的。身体の感覚を総動員させて他国の風景や文化を快楽として受けとめる、そんな旅の楽しみ方ではなく、どこか理論的に楽しんでいるのが気になりましたが。

作家、須賀敦子さんのことを書かれた文章も多く、それを読むと著者がどんなに彼女のことを慕い尊敬していたかがしのばれます。イタリアを旅した時、須賀敦子がかつて歩いた道を前に足ががくがく震えた、というくだりでもそれが読みとれます。須賀敦子の本はまだ1冊も読んだことはありませんが、私の中であこがれだけがふくらんでいる作家。ますます読んでみたくなりました。

同著「寺暮らし」を読んだ時に感じた、自然と一体となった彼女らしい暮らしぶり。 そんな心地よさがこの本ではあまり感じられなかったことが残念に思います。 地域に根ざした環境問題等については、あらためて考えさせられましたが。