宮本 輝


避暑地の猫(講談社文庫)

「清澄な軽井沢の一隅に、背徳のの地下室はあった。そこでは全ての聖なる秩序は崩れ去り、人間の魂の奥底に潜む、不気味な美しさを湛えた悪魔が、甘い囁きを交わすのだ。」裏表紙にこういう一文が書かれているのを目にした時、これは読むしかない、そう思ってしまった私です。(笑) 気がつくと面白くて、一気に読み終えていました。人に潜む悪を描いたお話なのですが、そこに表現されている「悪」は、美しくてあくまでも官能的。贅をつくした別荘の秘密の地下室で、ひっそりと行われている男女の悪の交わりと、それをひとたび知った人たちの愛するがゆえの憎悪が、宮本輝さんのあくまでもきれいな文章で表現されています。このお話の中では、猫は悪の化身のような形で登場します。猫好きな私としてはちょっと不満・・・ しかし、宮本輝さんの書かれた文章って、なんでこんなにきれいなんでしょう。


青が散る(文春文庫)

宮本輝さんの小説の中でも、とくに名作といわれている作品のひとつです。スポーツの根性ものだと勝手に思いこんでいた私は、なかなか読むきっかけをつかめないでいたのも確か。でも読み始めるとたしかに青春ものには違いないのだけど、もっと深いところまで描ききっているこのお話は、ただの爽やかな青春小説とは違っていたのです。登場人物それぞれが抱えているものの重さに、読んでいるこちらまで胸が締めつけられるような思いがしてたまらなくなってしまい、読みながら何度も涙していたのです。
とくにラストのほうでは、ひとつの、もう二度と帰ってこない貴重な時(青春?)が終わりを告げようとしている、そういうシーンがあるのですが、あのシーンは読んでいてとても切なかったのです。


私たちが好きだったこと(新潮文庫)

宮本 輝さんの書かれたものは大好きで何冊か読んでいますが、その中でもこのお話は軽いタッチで読める青春小説と言っていいのでしょうね。男女4人が繰り広げる恋愛模様はなんだかトレンディドラマのよう。でも読み進んでいくうちに、宮本 輝さんらしいお話の流れや登場人物たちの会話に、嬉しくなってしまうのです。

自分のことよりも他人のことばかり考えてしまうために損ばかりしている4人・・・ ただのお人好しではない、ある共通のものを持っています。登場人物の愛子は自分たちのことを「気配に敏感な人」というふうに表現します。気配に敏感だからこの社会の鈍感さに耐えられなくなって、自分の世界に閉じこもる以外に自分を守れなくなるの・・・ と訴える愛子。 自閉症の子供は知能がとても高い子が多く、まわりの信号をキャッチしすぎるために自分の中に閉じこもってしまった、というある本の一説を思い出してしまいました。

感受性が強すぎると、この社会はほんと生きづらい。現に愛子は不安神経症を患っています。こういう場合、今までの小説だと皆で肩を寄せ合ってお互いに癒やしながら生きていく、という筋書きが多かったのですが、このお話では、最後は各自が違った道をそれぞれひとりで歩き出していきます。
宮本 輝さんの書かれたものは、ほんといいなあ・・・