宮部みゆき


火車(新潮文庫)

読み終えてだいぶ経った今でも、本の内容を思い起こすたびに胸のあたりがキュンとしてしまいます。切ないような、やるせないような感じ・・・。この本を読むまでは、カードの使いすぎ等で自己破産をしてしまった人とは、本人の意志がとても弱かったり、我慢が足りない、どちらかと言えば自分とはかけ離れた人・・・ そういうイメージでとらえていました。でも、けっしてそうではないのですね。登場人物たちがおかれている辛い環境は、一歩間違えれば自分もそうなるかもしれない、という、そういう怖さをも含んでいるようです。人物ひとり一人のセリフがジーンとくるものが多くて、その中のひとつには思わず涙してしまうものもありました。ひとりの人間が抱える孤独とか、どうしようもない弱さ・・・それらが自分の持っている弱さと重なって、胸が切なくなったようです。宮部みゆきさんの書かれたものを読んでいつも感じることは、彼女の視点が弱い立場の人に対してとても優しいということ。それが彼女の書かれたものにとてもよく表れていて、読んでいるこちらまで気持ちがほこほこしてくるのが嬉しい。


理由(朝日新聞社)

直木賞を受賞した作品ということで評判になった宮部作品です。不動産流通、競売制度、占有屋・・・など、あまりなじみのない専門用語がたくさん出てくるこのお話は、いくつかの家族たちのストーリーが同時進行で進んでいくせいもあって、読み始めた最初の頃は、頭が混乱してちょっと戸惑ってしまったのもたしか。

お話の流れについていくのが精一杯という、そんな感じの読み始めだったのですが、後半からは宮部みゆきさんらしいお話の流れに一気に読み進んでいける、そういう面白さを感じました。家族で生活することは楽しい半面、どうしてもある煩わしさがつきまとってしまう・・・ その煩わしさから逃げ出してしまった人たちや、一見幸せそうに見える家族が抱えている深刻な事情、など、現代の社会の歪みのようなものの輪郭が、読み進んでいくうちにどんどんとハッキリと明確になっていきます。
ニュータウンにそびえ立つ高級な超高層マンション。それに翻弄されてしまった人やその家族たち・・・ この高級マンションとは、人それぞれの心の中では、なんらかの象徴なのかもしれません。