小池真理子


欲望(新潮社)

読み終えたあとで、思わずため息をもらしていました。ミステリーとして読むより、ひとつの恋愛ものとして読んだほうがいいかもしれません。それも純愛として・・・。恋をした相手が性的に不能ということもあり、身体では一度も結ばれなかった二人ですが、そこには狂おしいほどに相手を想い、欲する気持ちが描かれています。出口を失ったエネルギーに翻弄される様子は読んでいて辛いものがありましたが、男と女が強く惹かれ合うこと、そしていつのまにか忘れそうになっていた、生きる力にも等しい相手を欲する気持ち・・・。この本を読むことで、それらを私の中から呼び覚ましてくれたような気がしています。


記憶の隠れ家(講談社文庫)

題名に家がついたお話ばかりが六編収められています。どれもラストのあたりでなんともいえないぐらいにゾーッとさせられて、小池真理子の場合、怖さ、それだけに限って言えば、ミステリーは短編のほうが怖いような気がします。特に『刺繍の家』は、ラストのシーンがほんと怖い・・・。文章を頭の中で映像化してみると、その怖さは一段と増すようです。『花ざかりの家』では、人物ひとりひとりそれぞれの描写が見事で、それらが関わり合うことで、小池真理子さんの小説によく描かれる「狂気の美」が表れます。おぞましさと怖さと美しさ、それらが絡み合って一気にラストのクライマックスに向かっていくストーリー展開は、ほんとお見事!


うわさ(光文社)

表題の『うわさ』をふくめて4つのお話からなる短編集です。小池真理子さんは普通の日常に潜む怖さ、ミステリーを描くのがとても上手な作家。この本に収められている4つのお話も、そんないつ自分に襲いかかってもおかしくないような、そんな他人事ではない怖さを感じてしまいました。
どのお話も思わす「うーん」とうなってしまうほど面白かったのですが、とくに『独楽の回転』が好き。人の心の中にはそれぞれその人だけの流れる時間がある、そんなふうにいつも思っていた私ですが、その人それぞれの時間を独楽の回転にたとえた小池真理子さんの文章センスに感心してしまったのです。

休むことなくずっと回り続ける独楽を持つ男…エネルギッシュでいつも走っていて休むことを嫌う男たちは、ようく見渡せば私たちのまわりにけっこういます。仕事ができる人・・そんなまわりの評価とはべつに、もしそのような男を夫にもった妻の戸惑い、悩みがこのお話にはとてもよく表われています。かみ合わない二つの独楽の回転。そこから生まれてくる負の感情・・・小池真理子さんの筆力がさえわたります。

ひぐらし荘の女主人』と『うわさ』ではそれぞれ対照的な女性が登場しますが、けっして善や明ではないものの、どこかあやしい悪の魅力を持つ女性と、それに惹かれてしまう男性の様子が小気味いいほどのタッチで描かれています。
ふだんは潜んでいる、だけど女性ならだれでも心の奥でくすぶっているちょっとやっかいな気持ち…それをお話の中で引きだして私たちの前に見せてしまうから、ちょっと戸惑いながらも彼女の書かれたものにこんなに惹かれるのでしょうか。