川上弘美


●蛇を踏む(文藝春秋)

芥川賞をとった作品であるということと、著者の川上弘美さんがパソコン通信をされているということでとても興味があった本。
読むまではもっと難しい言い回しの多い、私の苦手なひねった文章を想像していたのですが、実際に読むと言葉がすとんと素直な感じで降りてきて、とても好感の持てる文章だったのです。現実のお話になにやら神話的なおとぎ話が入りこんでいる、そんなストーリーが魅力的・・・。とくに登場人物の会話がどこかたどたどしくて、それがポッとともるような温かさを感じさせています。

自分の書く小説のことを「うそばなし」と呼んでいます。
これは小さい時から「うそ」の国で遊んできたという、著者のあとがきでの一文です。幼い頃、頭の中でいろんな想像を楽しみ、その想像上の物語が頭の中を秩序なく飛び跳ね、それを楽しんでいた、その頃のことを思い出した私です。子供の頃によく遊んでいた想像ごっこの中での言葉遊び…いつのまにかやめてしまったそれらの遊びを大人になった今でも持ち続けることができた人・・・ それが川上弘美さんなのかもしれません。

かつて持っていたはずの自由な心がふたたび戻ってきそうな、そんな予感がする彼女の本。いつのまにか心にたくさんついてしまったものをそぎ取った時、その時に表れるものに出会いたい。