東野圭吾


●秘密(文藝春秋)

強い人、勢いのある人がどんどん登場して、どちらかといえば弱い立場にいる人が置いてきぼりになっている、そんな書き手がいる一方で、宮部みゆきさんや宮本輝吉本ばななさんのように、弱者に対してのやさしいまなざしが感じられる、そういった著者の方もいらして、私はどちらかといえば、後者の方が書かれたものをたくさん読んできました。
東野圭吾さんの書かれたものは始めてだったのですが、表面だけではない、人が持つ本質のやさしさ、どうしようもない弱い部分、せつなさ…それらが感じられて、娘の身体に母親が乗り移ってしまうというセンセーショナルな設定にもかかわらず、全体に流れているやさしく温かいトーンがとてもよかったのです。
男性が書かれたもの、ということもあるのでしょうが、きれいごとではない生々しい問題も避けないできちんと描かれてあって、それがこの小説をただのミステリーに終わらせない、そんなリアリティーのあるものにしているようです。

人によっていろんなとらえ方ができるのでしょうが、私はこの小説は夫婦の愛を描いたお話だと思いました。ある事情から、愛する人が目の前にいるのに結ばれない、そのもどかしさがせつないほどこちらに伝わってきます。
母親が娘の身体に乗り移った時、もう一度学生になった彼女は青春をやり直します。そのシーンはほほえましさと同時になんだか胸がキュンとするものも伝わってきて、そんな自分になんだかドキドキしてしまったのです。
ラストのシーンは、ほんと泣けます。