林 真理子



●みんな誰かの愛しい女(文藝春秋)

久々に読む彼女の本は『週刊文春』に連載されている彼女のエッセイ集。直木賞作家というすごい肩書きを持っている彼女がスルスルと私たちのところまで降りてきて、ミーハーで楽しい彼女の一面をたくさん見せてくれています。

叶姉妹のこと、テレビ番組「愛の貧乏脱出大作戦」、サッチー騒動のこと・・・
身近にある私たちが興味をもっている話題もたくさん取りあげていて、ちょっぴりドジでかわいい失敗の数々に、何度も大笑いしながら読んでしまった私です。
業界一二を争ういい男たちとのエピソードはちょっと悔しかったけど(笑)。

立派なことや大層なことを上のほうから言う、そんな文章よりも、私たちを楽しませてくれる、エンターテイメント性のある作風がいい。
楽しく笑いながら読んでいても、彼女の文書から時おりドキッとするものを感じてしまうのは、やはり批評性のある文章をたくさん書いているせいなのでしょうか…。


●花探し(新潮社)

林真理子はどうしてこんなにも嫌な女を描かせるとうまいのだろう。
『不機嫌な果実』を読んだ時にも感じた思い、 この本でも強く感じました。
どうすれば自分が魅力的に見えるか、いつも頭で計算をして行動する主人公の舞衣子。もちろん男性を惹きつけるためのものですが、それは男性に愛されたいと思う気持ちからではなく、すべてお金のため、というのがやりきれない。
不機嫌な果実のヒロイン麻弥子がそうであったように、身につけるものすべてブランドにこだわり、食事をするお店ひとつとっても厳しい審美眼をもっています。お相手の男性の容姿はもちろん、職業と収入がなによりも大切。そう、彼女にかかると男性も女性を飾り立てるブランドといっしょ。そこにいちばん不足しているのは愛・・
「自分はなんて不幸な女なのだろうか」
男性たちにちやほやされながらも、舞衣子がちっとも幸せそうではないのはそのせい?

私は男性を虜にしている…そんな優越感にひたっている舞衣子ですが、行っていることは売春婦とあまり変わらない。それもSMや乱交パーティーのたぐいにまで足を運んでしまう愚かさ。その愚かさに自分自身が気づくころには時おそく、最後に待っているのは男性に都合よく扱われ、とても傷ついている自分の姿。
この本に描かれているのは愚かな女のお話ですが、頻繁に登場する性描写とわかりやすい文章・・娯楽小説としてじゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。


●みんなの秘密(講談社文庫)

「なにもここまで・・
登場する主人公、とくに女性たちの様子があまりにも愚かに描かれているせいで、読みながら息苦しささえ感じていた最近読んだ林さんの書くお話。もしかしたらそういう本ばかりを手にとってしまった私のほうにも原因があるのかもしれませんが。
ちょっと引き気味になっていた林ワールドだったのですが、この本があんまり面白かったせいで、私の中で林真理子が再浮上…とても単純な私。

わき役だった登場人物が次のお話では主人公に… そんなリレー形式で展開される短編集。男と女、見えないところでおこなわれる心理のかけひきが面白くて、一気に読んでしまいました。
どのお話も他人事には思えないところが怖いのですが、道徳的にはけっしていいとは言えない彼等の様子に、何らかの親近感をもってしまった時のばつの悪さ・・
小説だから大げさな表現は目立つものの、文中の人物たちにかつて出会ったことがある○○さんだとか△△くんをいつしか照らし合わせて読んでしまうのは、私だけではないはず。

お話の12番目・・ラストの「二人の秘密」では、夫婦愛、とくにご主人の奥さんにたいする深い愛情に胸がうたれました。それはきっと、性愛のもっと上をいく”愛”の存在が、「思いやり」から成り立っているせいなのでしょうね。