・完訳・チャタレイ夫人の恋人
・朗読者

外国文学



●「完訳・チャタレイ夫人の恋人」・ロレンス(新潮文庫)

芸術か、猥褻か…チャタレイ裁判で話題になった本の完訳版です。
私がこの本、もちろん削除版をはじめて読んだ時はたしか高校生の頃で、あれから年月を経て読み返してみると、実際に結婚生活を送っているということもあって、あの時とはまた違った読み方をしている自分がいました。
主人公の女性コニーが愛人の森番メラーズに逢いに行くシーンを読むと、なぜだかむかし好きでよく読んでいた、『秘密の花園』というお話を思い出していたのです。理屈っぽくて知識や理論ばかりを重視しすぎる夫との結婚生活によって、どんどんと心が荒廃していくコニーでしたが、森番に逢いに行くその時だけがひとときのやすらぎ・・・
そのシーンは自然描写がとくに優れていて、機械のようにカチカチになったコニーの心と身体が、美しい自然に、愛する彼に向かって開かれていく、そういうシーンがとても印象的。

自然の一部のような、丸ごと雄のメラーズとの逢瀬によって、彼女は本能としての自分、女としてどんどんと輝いていきます。
著者ロレンスは一生を賭けて”自然”の探求を続けてきた人。だからこそこのようなお話が書けたのでしょうね。


●『朗読者』・ベルンハルト・シュリンク(新潮社)

15歳の少年と21歳年上の女性との愛。最初はそのセンセーショナルなぶぶんばかりが印象に残ってしまったのですが、内容が進んでいくうちに、このお話のベースになっているあまりにも重い歴史的背景を感じた時、思わず本を閉じかけたほど。
そして、胸が締めつけられるほど辛くて切ない、愛の姿がそこにあります。

ナチのことについて触れてある本のほとんどが、紋切り型に圧倒的な悪、として表現していますが、この本は違うようです。結果は”悪”だとしても、そうなってしまった経過、誰の心にも潜む、心の闇が感じられました。だからこそ読んでいると辛い。
ある状況下におかれると人としての尊厳・・大切なものまで失ってしまう、そんなこわさも伝わってきます。文中の「ナチズムの過去との対決」という短い言葉がすべてを表しているようです。

文中の描写が頭の中で像となって結びやすく、小説としての完成度もかなり高い作品。読み終えたあと心に残るもの…生きている人がいつのまにか背負っている荷物の重たさと、それでも愛をつらぬこうとする、人が持つ性(さが)の素晴らしさなのかも。