ダニエル・キイス


アルジャーノンに花束を(早川書房)

精神遅滞者の男性チャーリィが、科学のメスによって天才的な知能を得ます。手術を終え、輝かしい未来と大きな幸せが待っているはずだったチャーリィが見たものは・・・。彼のもつ温かさや思いやりが、知性と引き替えに傲慢で自己中心的なものに変わっていき、孤独が彼を打ちのめします。幸せとはまわりから作りあげられるものではなく、幸せだと思うその気持ちが大切なのですね。今さらのように思いました。
チャーリィが愛する女性アリスと肉体的に結ばれる場面。二人の肉体の結びつきによって、意識は大きな宇宙に向かい、肉体のリズムが心にこだまをひびかせる…こんな文章があります。ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』に、ヘルマン・ヘッセの思想を見いだしたことを思い出した私。この三つのお話にはある共通点があるのです。
チャーリィは知能が遅れていることが不幸なのではなくて、いちばんの問題点は家族、とくに彼の母親にあると思いました。息子であるチャーリィを守ることよりも自分の名誉を守ることをなによりも優先したのですから。

まだ知恵がついていない子供の頃、もっと真っ直ぐに人のことが見えていたはず。賢くなっていくたびに何か大切なものが失われているのだとしたら、それはとても悲しいこと。