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ミッドナイト・コール』・田口ランディ(PHP研究所)



田口ランディ、初の恋愛短編集ということですが、男女間のことを描きながら、人が人を慕い、つながりを求める気持ちには男女は関係ないのだなあ、と思いました。

恋を失いかけた時、女はすがるように男の気持ちが自分のもとに返ることを求めます。執着
つらい最中、同性である友の存在が彼女たちを力づけます。友情
今の状況からはい上がるようにこれから自分がすべきことを見つけ、歩もうとします。前進
いくら今が酷くとも、同じ状況にはずっといない、いや、いられないことを知った時、自分自身が前よりも向上できる、そんな糸口みたいなものが見つかるのではないのかな。
どちらかといえば要領がよくて器用な人たちがこの本を読んだとき、この本の登場人物たちのことがもしかしたら愚かに見えるかもしれません。そして、そんな主人公たちの気持ちが分かってしまった私は、きっと人間関係に不器用なタイプなのかも。

ひとつのつながりが壊れかけた時、今まではひそんでいたもうひとつの関係・・相手のさりげない一言によって救われることってありますよね。そういうことがこの本からは感じられて、「やるせないな」なんてため息をつきながらも、心のすみっこのあたりがホーッとうるおう、そんなお話たちがよかったのです。


家にいるのが何より好き』・岸本葉子(文藝春秋)

自分のこと、かなりのこだわり人間だと思っていましたが、岸本葉子さんの本を読むたびに、自分などはまだまだ序の口…いつもそう思ってしまうのです。 このエッセイでもそんな彼女のこだわりぶりが強く感じられ、その対象がすべて身近にあることばかりだったので、とても興味深く読みました。
他人から見ると取るに足らないような出来事でも、少し視点を変えてみれば、また違ったものとして新鮮に自分の中に飛び込んでくる…ようく考えてみれば普段何度も経験していること。ただ気がつかないだけだったそれらが、このエッセイを読むことでふたたびもどってきます。

「挑んでいる」
暮らしを楽しみ、日々の出来事たちに身を任せながらふわーっと受けとめていく、そんな感じではなく、岸本さんのエッセイを読んでいるときに私が感じたこと。現実的なことや面倒な各種手続き等を夫が受け持ってくれている私とは違い、一人暮らしの岸本葉子さんは、それらを全部自分ひとりで行っています。文章全体から伝わってきた「挑んでいる感」はもしかしてそのせいなのかも。それとも彼女の性格?

ひとつの事柄をとことんつきつめ、妥協など許さないような強いこだわりが本全体にぴしぴしと満ちているのに、どのエッセイからもそことなく伝わるユーモア・・。とくに妊娠話のくだりは笑えました。だけどあらためて自分自身の妊娠、出産のことを思い返したとき、「どえらいことをしてしまった」なんて、今さらのように思ってしまった私なの。


性遍歴』・松本侑子(幻冬舎)

私のHPにアップした本の感想を読んで、著者の松本侑子さんからメールをいただいたことがあります。そして、週三回発信されるメールマガジン「幸せになる『赤毛のアン』の言葉」をとても楽しみにしている私。そんな彼女からのメールで新しい本が出たことを知り、さっそく読んだ本が『性遍歴』。自伝的性愛小説は美しい文章と官能的な表現に彩られ、一気に読んでしまった面白い本。五つのお話が収められています。
その中のひとつ、表題にもなっている「性遍歴」。どちらかといえばオクテな著者の性にまつわるお話が赤裸々に語られていますが、とくに同性の方が読むと自分との類似点をいくつか見つけることができ、著者に親近感さえわくのではないかしら。 
フェミニズムの問題を頻繁に文中で問いかけている著者。この本ではとくにジェンダー(性差)の問題について織りこませています。どちらかといえば性差を楽しんで生きてきた私には、今ひとつピンとこない問題定義でもあるのですが、興味がない、ただそれだけで自分と遠いところに追いやってしまったそれらを、少しは考え直すきっかけにはなったような気がします。

リズムのある文体は軽やかなのに、どこかくねっとまとわりつくよう。毒をもつ美しい文章に惹きつけられます。
「私は新しい扉を開いた」
帯に書いてある文章そのままに、本を開いた私たちに、新しい世界を見せてくれています。 

』・柳美里(小学館)

同じ著者の書いた本、『命』の続編のような感じで読み始めた本でした。でもこちらのほうがいろんな意味で痛かった。この本を「癌闘病記」として読むこともできます。家族の濃いつながりを描いたノンフィクションとして読むことも。

家族・・
柳美里さんとその息子の丈陽くん。いっしょに暮らしている(同居人)東由多加さんとは血はつながっていません。美里さんのあいだに婚姻関係があるわけでもないし…。でもどこから見てもこの三人はまぎれもない家族なのです。
東さんと美里さんはかつて同じ劇団の先輩と後輩という間柄。お互いに恋人ができたと知ると、競いあうように他の異性とつきあったほどのなまぐさい男女の関係もあったようです。
男女の関係がその始まりでは、あわくどこか夢見がちに時が経っていくのに対し、関係が深まるにつれてどんどんそこにお互いのもつ”現実”が加わっていくのは仕方がないのことなのでしょうか。相手の痛みが自分の痛みとして感じた時、はじめて相手を深く愛してしまっていることに気がつくのかもしれない・・。そして、恋から深い愛に変わっていく人と人との関係が、ほんとうの意味での「家族」のつながりを作っていくのかも。

病による激しい痛みや幻覚に苦しみながら、それでも最期まで癌と闘おうとした東の姿は、柳美里とその息子丈陽を守ろうとした強い男の姿。慣れないはじめての育児と重病人の看病、締め切りのある仕事を抱え、何度もつまずきそうになりながらも、それでも自分を見失わなかった著者の姿…感動しました!
つるんとしたすべすべの文体を書く作家がいる一方で、柳美里のように、心にできてしまった瘡蓋さえも描ききってしまう作家がいることを、どこか頼もしくさえ思えた私です。