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愛はプライドより強く』・辻 仁成(幻冬舎文庫)




たった一人の女性に向かってラブソングをひたむきに歌うように、僕はこの恋愛小説を書いた。
著者のあとがきの言葉。だけどこの本に描かれているのはあまい恋愛小説ではありません。
男と女、プライドを持った人間同士の暮らし・・裸のプライドはおたがいの痛みばかりをつつきはじめ、それでも寄り添うふたりの前に立ちはだかる、それぞれが抱える現実。
辻 仁成がつむぎ出すセンテンスの短い言葉がテンポよく連なり、主人公たちが抱えるおもに仕事上での苦労が文中から伝わってきます。特に音楽業界についてのエピソードは著者自らが経験してきたことだけに、生々しいほどの現実感。

上手くいかない仕事、都会の生活にも疲れを感じた時、故郷が心の中でどんどん大きな存在になっていく・・心のかたすみに追いやられていたはずの故郷が心を浸し始めたとき、いっしょに暮らす女にはそれが敗者として映ってしまう、という悲劇。

私は辻 仁成が書く街の描写が好きです。どこか人を拒んでいるような都会のようすとけっしてきれいではない街。でも、なぜか惹きつけられる都会のすがた。
見捨てられることには慣れてしまったという主人公のナオト。小説が書けなくてどんどん憔悴していく彼のすがたに著者を重ね合わせた時、ファンの私は心がちくんと痛みました。


NP 』・吉本ばなな(角川書店)

重い小説。吉本ばななの小説にいつもつきまとっている「死」がこの本ではとくに色濃くただよっているせいか、読み始めて10日後にやっと読み終えました。
生きにくいなにかをいつもかかえて強烈な個性を放ち、世間の常識からはかけ離れてしまっている人たち。だけどどこか憎めなくて、それどころか惹きつけられる…ばななさんの本によく登場する人物たちの魅力がこの本では感じられなかった。
同著 『哀しい予感』のやよいのような存在になるはずであっただろう、登場人物のが、ただのあぶない女性として描かれていたことが、この小説にとけ込むことができなかったいちばんの原因なのかも。

高瀬皿男というひとりの作家の死。彼の書いた98話目の小説を読んだ人たちを襲う不幸な出来事…呪われた小説。その沈鬱でやりきれない世界がこの『N・P』にそのまま乗り移ったかのような居心地の悪さ。夏が舞台になっているお話なのに、夏の明るさよりもぎらぎらした狂気を感じます。(ちょっと辛辣すぎたかな)

「何もかも吸い取っちゃうからね・・・・・あんた。まわりの空気を」
簡単だけど核心をついた言葉。主人公の母親が人一倍感受性が強い彼女にむけた台詞が印象に残っています。


その日暮らし』・森 まゆみ(みすず書房)

その日暮らしとは、未来のために現在を犠牲にしない生活。簡潔に暮らしたい…あとがきで著者は述べます。だけど実際の彼女の暮らしぶりは簡潔とはほど遠い。
夜中になってようやく、生活という魔物がしずまった。
文中の彼女の言葉がしんと胸にひびきます。

離婚して三人の子供を かかえての生活。仕事と毎日の雑事に追われ、その忙しさの合間に海外旅行を楽しむ… そこに見えるのはアクティブだけど雑多な暮らしぶり。
ゴミ問題、リサイクル、老人問題、バリアフリー・・今の日本、社会がか かえている問題も、生活者としてしっかり生きている彼女だからこその説得力。
大人数でワーッと楽しく過ごすことが好きな人と、どちらかといえばひとりの時間を大切にしたい人がいます。森さんは後者の人。そんな彼女がけっして広くない家の中、大きく成長した三人の子供たちと助け合い、ある時はしめぎあいながら暮らしていく、その様子がほほえましかったのです。

旅が大好きな著者は訪れた国のいくつかを紹介しているのですが、普通の観光レポートとはちがう、美しいものときたないものすべてをひっくるめた、そんな丸ごとの旅のレポートが印象的。身体の感覚を総動員させて他国の風景や文化を快楽として受けとめる、そんな旅の楽しみ方ではなく、どこか理論的に楽しんでいるのが気になりましたが。

作家、須賀敦子さんのことを書かれた文章も多く、それを読むと著者がどんなに彼女のことを慕い尊敬していたかがしのばれます。イタリアを旅した時、須賀敦子がかつて歩いた道を前に足ががくがく震えた、というくだりでもそれが読みとれます。須賀敦子の本はまだ1冊も読んだことはありませんが、私の中であこがれだけがふくらんでいる作家。ますます読んでみたくなりました。

同著「寺暮らし」を読んだ時に感じた、自然と一体となった彼女らしい暮らしぶり。 そんな心地よさがこの本ではあまり感じられなかったことが残念に思います。 地域に根ざした環境問題等については、あらためて考えさせられましたが。


千年旅人』・辻 仁成(集英社)

三つのお話で構成されている本の中で「砂を走る船」がいちばん好き。
死にたくてしかたがない主人公の彼、現世に未練がありながら死が迫っている男、義足の少女…死者を海に流す風習のある土地での毎日が淡々と過ぎていきます。自分の運命に逆らわないでそれに流されるように生きる彼等の姿・・それはあきらめとはちがう、もっと上にある静かで崇高な生き方。それを見て運命を自らの手で変えようと抗っている主人公は迷います。

千年旅人と呼ばれる人々は川を単純に横断するのではなく、流れに乗って川を下る人々。適当なところまで流されて、人生を多く堪能したのち上陸するようだ。
あとがきで著者は述べています。流れに逆らうのではなく流れに乗って人生という川を渡る人たちに対する憧れが感じられる一文。
音楽、執筆活動、映画、ドラマの脚本…今という時代を猛スピードで駆け抜けていたかに見えた辻 仁成ですが、40歳を迎えて”急がない人生”について思った時、この『千年旅人』が生まれたのかしら。

赤道に近い島が舞台となっている「記憶の羽」のお話。生と性エネルギー、家族間の軋轢、禁断の恋…すべてをのみこみ丸め込んでしまうかのような大きくて美しい、だけど怖い自然の姿がそこにあります。読んでいるうちに息苦しさを感じるほどはりつめた神経症的な文体が、読み手の私を何度も立ち止まらせましたが・・


ハリー・ポッターと秘密の部屋J.K.ローリング (静山社)



*書評コンテストのジャンルトップ賞をいただいた作品です。

ヒーローのハリー・ポッターが「ホグワーツ」という魔法学校に入学して、そこで友情をはぐくんだり、くりひろげられるいろんな出来事たち。自分自身もかつて体験した学校生活のことを思い出して、本の中で繰り広げられるファンタジーをいつしか楽しんでいたのです。魔法学校といっても私たちの学校生活と根っこのぶぶんはほとんど変わらなくて、優等生がいれば劣等生がいて、短気な人、のんびり屋さん・・いろんな個性が魔法学校をいろどります。この本を冒険小説として読む一方で、学園小説として楽しむこともできそうです。随所にユーモアが感じられることも、きっと魅力のひとつ。

現実の世界とは相反する、そんなイメージのあるハリーたちのいる世界ですが、じつは今いる場所、かつて経験したことのある出来事たちと根もとのところでしっかりつながっている、という真実。 読み進んでいくうちにまるで私自身がホグワーツ魔法学校の生徒のひとりになったみたいな楽しさ。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人組といっしょに冒険をおかしている、そんな楽しい錯覚をおぼえます。ワクワクしたりドキドキしたり、行く手をさえぎる障害たちを自分たちの力でひとつひとつ乗り越えていく、快感。

ハリーポッターのシリーズ、二作目は魔法学校の夏休みからはじまります。12歳の誕生日を迎えたハリーの新たな冒険の始まり。
二作目で新たに加わったキャラクターたち…魔法界では有名な人物、突飛で目立ちたがり屋のロックハート。その言動がとにかくおかしくて、何度もクスッと笑ってしまいました。屋敷しもべ妖精とよばれているトビーも火花が飛び出るほど強烈な個性放っています。その他にもたくさんの登場人物がでてきますが、みんななんらかの弱点をもっていて、どこか憎めないキャラクターが多いことも特徴のひとつ。登場人物たちが頭の中できちんと映像化され、いきいきと動き回ってくれることが嬉しい。

本の表紙に描かれた人物が私たちに笑いかけたら・・そんな想像をしたことはありませんか。すんなりすぐに開いてしまう扉がなんだかつまらなくて、友人と呪文を唱えて遊んだことはありませんか。今乗っている車が空を飛べたら、そんなことを願ったことはありませんか。子供のころ、心にもっていたはずのワクワクしたものや毎日をキラキラさせてくれたもの、それらがこの物語には詰まっています。

こわい、だけど見てみたい、冒険への誘惑・・
秘密の部屋に関する謎がどんどん明らかになり、最後にはあるものとの対決シーンが待っています。そこに現れた意外な人物。その正体とは… 謎解き、冒険小説してのおもしろさもじゅうぶんに味わえる本。
ハリー・ポッターの物語はこれからも続くそうなので、成長していく彼がこの後どんな冒険をしでかしてくれるのか、とても楽しみ。このシリーズが、ファンタジーを忘れかけそうになっていた私をふたたび冒険と想像の世界に引っ張ってくれたこと、そのことにとても感謝しています。


シンプル・シック 暮らしのレシピ』・有元葉子(三笹書房)

「なんてセンスのいい人なのでしょう」
女性誌などで有元葉子のテーブルセッティング、その巧みな器づかいや料理の盛りつけなどを目にするたび、感嘆のため息をもらしていた私です。
雑誌のグラビアからうかがえる、食を中心にしたセンスのいい暮らしぶり。でもこうやって活字で読むのは初めてだったのですが、暮らし、食、インテリア、旅・・彼女の強いこだわりが伝わってきます。
「毎日の生活こそを楽しみたい」そう願っている私だから、彼女のおしゃれなこだわりたちが嬉しくなってしまったのです。
心地よい暮らし、イコール自分サイズの暮らし。生活の一場面を自分が選んだ美しいもので彩ることができたらどんなにシアワセなことでしょう…この本が語ってくれます。  暮らしの中にあるアート

テイストがバラバラで寄せ集めのようなインテリアをまとまりのある空間にしている土っぽいカゴたち。日本の家に合う、素朴で静謐感のある韓国の家具や器。いつものキッチンマットを紙にして、色と素材を楽しんでみる…すぐにでも真似したくなるような有元さん流のモノ選びのこだわりが読んでいて楽しい。
物ひとつとってもその役割を決めつけてしまわないで、頭を柔軟にしていろんなシーンでそれを使ってみる…見慣れた雑貨が頭で考えることによって、またちがう場面で息を吹き返すなんて、素敵!


ガーデニングな毎日』・岡井路子(KKベストセラーズ)

ガーデニング・カウンセラーの肩書きを持ちながら、主婦の視点をずっと持ち続けている著者の書いた本。普段着のガーデニングの魅力でいっぱいです。
著者の庭、そこで育つ植物たちの写真が何枚か載せられていますが、どの植物も素直でおおらか、そしてたくましさを感じます。自然の恵みをいっぱいに受けて育った植物たち。育てているだけで元気がもらえるはず。

自分の「好き」がたくさんある人ほど豊かな人生が送れる、と著者は言います。自分が夢中になれること、もっと大切にしたいですよね。
やさしくておおらかな著者の語り口ですが、言い訳をする人たちに対してはビシッと厳しい意見を・・。北向きだから植物は育てられない。大きな庭がないから無理…そんな言い訳は著者の前では通用しません。今は子供が小さいから、家族が反対するから無理、そんな理由で自分が好きなことに一歩踏み出せないでいる人たちにおくる、著者からのメッセージ。それは経験者だから送れる励ましのエール。

人と植物の無理なくつきあえる関係。一方的にただ世話をするのではなく、愛情をかけると植物がそれ以上のものを返してくれる…私も経験しているから分かります。植物の育とう、花の咲こうという意志を大切にしてそれをほんのちょっと手助けしてあげる、そんな植物との対等な関係がきずけたらいいですよね。

幼いころに見た懐かしい原風景。大人になった今、それらが庭づくりに生かされるとしたら、庭づくりは自分と向き合う大切な時間。もっと大切にしたいです。