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愛をください』・辻 仁成(マガジンハウス)

 

不幸な生い立ちを背負い、人を信じることができなくなった孤独なヒロイン李理香と、彼女を遠方から励まし続けるひとりの男性基次郎との往復書簡。文字だけの交流なのに、そこには本当のことだけえを伝えようとした真摯な思いに溢れています。
「愛してほしい」
愛を求める気持ちから自らの身体を好きでもない相手にあたえてしまう李理香を攻めるわけでもなく、ただ辛い気持ちを受けとめ、さりげなく生き方の軌道修正をはかる基次郎に真のやさしさを見ました。
がんばれ…そうは励まさないけど、まわりの自然、美しい景色たちを感じることを李理香にすすめます。孤独だという彼女に大きなものにいつも見守られていることを伝えようとする基次郎。荒みきった李理香の心を包み込むように癒やし、未来に向かっていく勇気をあたえる基次郎の言葉は文通相手である李理香にあたえられたものなのに、読んでいる私自身もいつしか励まされているのを感じます。

真実というものは痛い。
文中の言葉がストレートにひびきます。痛くてもどうしても伝えたかったこと・・ その痛みを受けとめられる人こそ、真の友達であったり、恋人であったりするのでしょうか。

新緑の美しい季節、並木道を胸をはって歩いている李理香・・自業自得になっていた彼女が明るい光を未来に見つけ、希望に向かって進んでいく、この場面がいちばん好き。
この本は放映されたテレビドラマ「愛をください」がもとになって書き下ろされた小説だということ。ドラマも見ましたが、本のほうが内容がシンプルなぶん、真っ直ぐに伝わるものが大きかったようです。泣けます。


ハリー・ポッターと賢者の石』・J.K.ローリング(静山社)

 


「面白くて一気に読んでしまいました」
こんな声を私のまわりでたくさん聞いた本。大きな期待を胸に読み始めた本は、最初のうち物語の世界にすんなり入っていけなくて、そんな自分にショックを受けたというのがほんとうのところ。
あんなに冒険小説やファンタジーが好きだったのに、大人になることでいつしか遠ざかってしまっていた世界、そのことに気づかされたみたいです。

ヒロインのハリー・ポッターが「ホグワーツ」という魔法学校に入学して、そこで友情をはぐくんだり、くりひろげられるいろんな出来事たち。自分自身もかつて体験した学校生活のことを思い出して、本の中で繰り広げられるファンタジーをいつしか楽しんでいたのです。
現実の世界とは相反する、そんなイメージのある世界ですが、じつは今いる場所、かつて経験したことのある出来事たちと根もとのところでしっかりつながっている、という真実。 読み進んでいくうちにまるで私自身がホグワーツ魔法学校の生徒のひとりになったみたいな楽しさ… ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人組といっしょに冒険をおかしている、そんな楽しい錯覚をおぼえます。
ワクワクしたり、ドキドキしたり・・行く手をさえぎる障害たちを自分たちの力でひとつひとつ乗り越えていく、快感。

クラッカーから音とともに飛び出した、小さなおまけたちに胸がときめいた幼い日の自分。鏡になにか特別なものが見えることを期待して、じっと見つめていたあの日…
本を読むことでよみがえった幼い日の出来事たちが、私の心をあたたかくします。
なじむまでに少々時間がかかってしまったハリー・ポッターの世界ですが、いざはいってしまえば、こんな楽しくてワクワクする世界はありません。


花探し』・林真理子(新潮社)

林真理子はどうしてこんなにも嫌な女を描かせるとうまいのだろう。
『不機嫌な果実』を読んだ時にも感じた思い、 この本でも強く感じました。 どうすれば自分が魅力的に見えるか、いつも頭で計算をして行動する主人公の舞衣子。もちろん男性を惹きつけるためのものですが、それは男性に愛されたいと思う気持ちからではなく、すべてお金のため、というのがやりきれない。不機嫌な果実のヒロイン麻弥子がそうであったように、身につけるものすべてブランドにこだわり、食事をするお店ひとつとっても厳しい審美眼をもっています。お相手の男性の容姿はもちろん、職業と収入がなによりも大切。そう、彼女にかかると男性も女性を飾り立てるブランドといっしょ。そこにいちばん不足しているのは愛・・
「自分はなんて不幸な女なのだろうか」
男性たちにちやほやされながらも、舞衣子がちっとも幸せそうではないのはそのせい?

私は男性を虜にしている・・そんな優越感にひたっている舞衣子ですが、行っていることは売春婦とあまり変わらない。それもSMや乱交パーティーのたぐいにまで足を運んでしまう愚かさ。その愚かさに自分自身が気づくころには時おそく、最後に待っているのは男性に都合よく扱われ、とても傷ついている自分の姿。
この本に描かれているのは愚かな女のお話ですが、頻繁に登場する性描写とわかりやすい文章・・娯楽小説としてじゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。 


いちご薄書』・植嶋由衣(読売新聞社)

第20回読売「ヒューマン・ドキュメンタリー」大賞カネボウスペシャル入賞作品集。5編の作品が収められています。
この本の表題にもなっている大賞の「いちご薄書」は、執筆当時16歳の若い女性が書かれたもの。テンポがよくて明るい文体からは、家族、とくに母親の愛情が強く伝わってきます。
傷つくことを必要以上におそれてそっと生きるのではなく、一度きりの人生だもの、他人の目など気にしないで自分らしく生きなさい・・一見破天荒にも見える母親の生き様が語ります。学校では学べない生きた教えは、生きることのたいへんさと同時に命の重みを説いています。

優秀賞を受賞したのは、なんと漫才師西川のりおの作品。読みながら文中の大阪弁がみょうに耳についてしまった作品ですが、かっこうばかり気にして中身のない人たちをけらけらと笑い飛ばすような、のりおさんの母親のパワーが感じられます。そこにあるのは体裁よりも本音の世界。でもあまりにも金、金、金…とお金の話が続くのはちょっとうんざり。もしかしてこの私こそ、のりおさんの言うところの”いいかっこしい”なのかも。

入選作の「狂言の国・詩人の国」「伴走夫婦」、このふたつはかたちこそ違っているものの、どちらも女性の自立がテーマになっているように思いました。紆余曲折のすえ、最後に見つけた自分自身をキラキラと輝かせてくれるものの存在。暗さのむこうに見える希望のともしびが、読むものを安心させます。

「私の考え、体験を世間のみんなに伝えたい」
どの作品も筆者の強い思いが文章の中に表れていて、常に読み手のことを意識して書かれているプロの作家のものとは違う、ごつごつした文章がきっと魅力のひとつ。


彼が泣いた夜、、』・内田春菊(角川書店)

うーーん・・・
内田春菊の本を読んでいる時に感じるやりきれなさ、読後感の悪さをこの本でも感じてしまいました。
男女を問わずだれにでも欠点があります。
「しょうがないなあ」
苦笑しながらもそれをどこか受け入れてしまう人と、ぴしゃっと拒絶する人…この本の春菊さんはまさに後者の人みたい。
主人公八寿美は仕事を続けながらふたりの男性の身勝手さに振り回されて、かつては恋人だった彼たちを嫌い、離れていきます。彼らの束縛からもがき苦しむ八寿美の姿が痛々しい。最後にはその男性たちに対して容赦ない仕打ち。
「なにもそこまで・・
そう思ってしまった私は、やはりあまいのかな。たしかに彼等の行動の中には卑劣きわまりないものもありましたが・・
嫉妬深くて傲慢で自分のことがいちばん好きな男たちは、少年の心という都合のいい言葉をかぶった幼稚きわまりない性格。読みながらかつてつきあいのあった男性のことをいつしか重ね合わせていた私。過去の男性たちの欠点がどんどん私の胸の中でクローズアップされていく心苦しさ。

同じ著者の書いた『今月の困ったちゃん』というエッセイを数ヶ月前に読んだのですが、春菊さんの事務所にやって来るいろんな困ったちゃんのことが書かれたこの本、読むと職業人としての厳しい春菊さんの様子がうかがえます。
一見ぽわーんとどこかぬけたような魅力のある著者とその作風なのに、読み進んでいくうちにいつしか突き詰めた感を感じる… それはしっかり自分の足で立っている方だけがもち得る、厳しさなのかも。


アンテナ』・田口ランディ(幻冬舎)

ざっと書店で斜め読みした時、過激な性描写、シャーマニズムや心霊などのオカルト的な言葉たちが目に入り、最初とても読む気がしなかった、というのが本音。
その本を購入してじっくり読んでみました。15年前に忽然と家族の前から姿を消した少女。その現実を受けとめることができない家族たちの心を、どんどんむしばんでいく負の意識たち。あやしい宗教にすがる母親、妹の生まれ変わりになろうとして精神を病んでいく弟、そして自傷をくり返す主人公の僕。
その僕がSMクラブの女王として働くナオミと出会います。まるでシャーマンのようなナオミによって抑圧された性エネルギーを解かれ、彼の意識は解放されます。そのことによって彼のまわりの人々、家族たちもある呪縛から解き放たれていくのです。
愛するもの(家族)を失った時、その悲しみははかり知れないほど大きいもの。その悲しみによっていつしか作られていく家族意識とその犠牲になっていく弱き子供たちの存在。小説だから大げさな表現が目立ってしまったものの、もしかしたらどの家庭におこってもおかしくない出来事なのかもしれません。

相手の波長と強く感応してしまうために心にブラインドをおろして生活している人たち。感受性が強すぎるために生きづらい彼等につけられた呼び名がコンセント。いろんな波長を受信するアンテナ…田口ランディの言葉の用い方にはうなってしまう。
どちらかといえばあまり知りたくない闇の世界を描いたお話ですが、この世界であやしいことはぜんぶ人間の意識が作り上げているという結果に、ホッとすると同時に、無意識の領域の深さに怖さを感じてしまいました。

見えない世界、形では表せない世界を描くことはほんとむずかしいし、誤解をうみやすい。その世界をあらわそうとした、そしてこれからも描こうとする著者の田口ランディはすごいと思う。でも過激すぎる表現たちを前に、ちょっと引き気味の私がいることも確かなのです。


ローズガーデン』・桐野夏生(講談社)

なにかに溺れて、そこから抜け出せない人たちを描いたお話が4編収められています。
本の中で繰り広げられる濃厚な世界・・ 外見や職業、表面だけでは分からないもうひとつの顔。悪意から生まれる犯罪がある一方で寂しさから罪を犯す人もいるという事実。ミステリー仕立てのテレビドラマを見ているような小説はサラッと軽い感じで読めます。
風景などの描写はたくみで、行ったことがない場所でも、まるで自分がそこにいるかのような錯覚をおぼえるほど。細部にわたるそれらの表現は、きれいなものと同時にきたないもの、おぞましいものも容赦なく描き出しています。

四つのお話の中では表題にもなっている「ローズガーデン」がいちばん好き。あと一歩でグロテスクになってしまいそう、そのぎりぎりのところで官能の世界を表している、その感じがスリリングでよかった。
そこにあるのはダークな世界のはずなにのに、どこかお洒落な感覚を見出してしまうのは、主人公のミロがただ淫らなだけではなく、男性を虜にする知性も持ちえているからなのかも。