坂東眞砂子


蛇鏡(文春文庫)

直木賞作家でありながら著者の本を読むことはおろか、名前も知らなかった私です。夫の書棚でこの本を見つけて題名に惹かれて読んでみると、面白いことといったら・・・ ホラー小説には違いがないのだけど、どろどろとしたお話が展開していくのにもかかわらず意外にサラッと読めてしまうのは、書き手の性格のせいなのかな。ホラーを読むのは好きなのだけど、後味がちょっと・・・そういう方にはピッタリのホラーだと思います。
文中の美しい風景描写を読んでいると、頭の中でその景色たちが浮かんできて、神社、池、蛇、鏡、蔵・・・など、むかしの日本、特に田舎によくある古くて、美しくて、ちょっとおぞましい物たちが、上手くお話の中で怖さをかもし出しているのが印象的。


死国(角川文庫)

高知県生まれの著者だからこそ書けたのかもしれませんが、高知(土佐)の地に古くから根づかれた民族、文化、信仰など、日本人なら誰もが持っているであろう、心の奥底に眠っている土着的感性を刺激する、そういうお話でした。
四国が昔は「死国」と呼ばれていたのは本当のことなのでしょうか。たしかに四国八十八ヶ所の霊場がある地ですよね。その舞台に住み、そこの風土をよく知った上でのこの小説は、怖いというより、日頃は忘れかけている見えない世界のことをあらためて認識してしまう、そんなお話に感じられました。

生きている人だけで構成されている世の中に、ある日、死者が再び蘇ってくるなんてことが起きたら・・・ けっしてありえないことではない、そんな風に思わせてしまう、この小説にはそんな怖さがあります。
私はこの本を読みながら、篠田節子さんの「聖域」を思い出してしまったのですが、自然はたしかに美しいのだけれど、その奥にはある怖さをも秘めている、という事実。頭の中に映像を浮かべながら読み進んでいくと、その光景が美しければ美しいほど、そして、そこに性的な匂いが濃厚になればなるほど怖い世界につながっていくという、ちょっとあぶない美しさに酔いしれてしまいそうです。