・HOME


・ミューズ
・ヴァイブレータ

赤坂真理




●ミューズ(文藝春秋)

肌感覚、をもっと掘り下げたような皮膚に下にある内蔵を意識してしまう、読んでいるうちに不思議な感覚が呼び覚まされる小説。
温度が感じられるやわらかい肉体の感覚が、歯の矯正装置に代表される無機質な冷たい触感と物語の中で交わる時、それはひりひりするような痛みをともなったある感受性を生み出します。
ストレートな文章とはちがい、遠まきの言葉たちによって身体のある部分の感覚が目覚めてくるのを感じました。言葉の遠隔操作・・

抽象的といってもいいぐらいの情感ゆたかな文章の中に出てくる、薬用ミューズ石鹸だとか新百合あたりの主婦、成城石井で売られている商品の列記… その箇所にくると逆にとまどいを感じてしまいます。
けっして幸せとはいえない、私(主人公)の生い立ちやら家族との関係も気になるところ。

女性だったらはまってしまう男性、というのがたしかに存在していて、この本に登場する歯科医の男性がまさにそう。主人公は高校生なのに思わず彼女に自分を重ね、ドキドキしながらこの本を読んでしまいました。
赤坂真理の本を読むのはこの本がはじめてなのですが、これからも読んでみたい作家のひとり。 とくに女性の方にお薦めします。
「あっ、このぶぶん、私といっしょ」
そう思えるところが多いと思うから。
記憶よりも身体の情報・・つい頭で考えてしまう、私たちにつきつける容赦ないけど甘美なもの。


●ヴァイブレータ(講談社)

自分の意志に関係なくいつも自分のまわりで聞こえはじめた言葉たち。コントロールできない声に悩まされる主人公の女性。編集の仕事にたずさわっていて人一倍言葉に敏感な彼女は、アルコールや過食、嘔吐に逃げ道を見つけます。
まわりから放たれるたくさんの信号をキャッチしすぎた時、人は精神を病み、封じ込められたはずの過去の記憶がそれに絡められた時、人はどんどん追い込まれていくのでしょうか。そこにあるのは逃げ場のないようなひりひりした感受性・・

主人公はある日、いつもよく行くコンビニで年下の男と出会います。彼は大型トラックの運転手。やくざの世界にも足を踏み入れたことがある彼ですが、いたって健全な精神を持ち、こわい世界を渡り歩いていたくせに時折のぞかせるやさしさに彼女は惹かれ、しだいに癒やされていきます。二人のあいだにあるのは言葉ではなく、もっとたしかな肉体を通しての会話。
それでもなにかの拍子に精神のバランスをくずしてしまい、男に自分を殴るように哀願する女に「好きだからそんなことはできない」と男のひとこと。こんなストレートな言葉を絶妙なタイミングで言ってくれる男は、主人公でなくても惹かれてしまいますよね(^^)

男と女、硬質と軟質、知と肉…相反するものがトラックの中という小さな密室で融合する時に生じるたしかなもの。
人によっては嫌悪してしまいそうな、そんな過激な表現も多く見られた小説ですが、私の中にはスーッと違和感なくはいってきたようです。楽しめました。